今思い返しても何故私が行けなかったのか疑問に思う出来事が有ります。
遡る事数年前の4月半ばの或る日に事件は起こるのですけれど当時夫は土日出勤で平日を休みに充てていて、一方の私はデータ入力の仕事を週休二日勤務という状況でした。
データ入力業務は年度末と年末が殺人的な繁忙期に成り、4月に入ると今度は真逆で時間を持て余すくらいに仕事が減少して定時で終わる日も珍しく有りません。
あの日も無事定時迄仕事をして駅に向かったのですが、何時もなら夫からの着信がひっきりなしで通話しながら駅へと急ぐのです。
所が其の日は夫からの着信が全く有りませんし、不思議に思っていました。そして駅に到着して改札を通り過ぎると私の視界に何やら不審な人影を見た気がしたのです。不審な人影はホームへ上る階段に隠れている様でしたが、隠れきれずに半分姿が見えていました。
それは見覚えの有るベージュ色のジャケットに赤いTシャツとジーンズに黒のスニーカーで、不審な人影の正体は私の夫だったのです。私が覗き込むようにして「貴方、何してるの?」と聞くと、チェッという表情をしながら「気付いちゃったか…!」と残念がっていました。
私は待ち合わせしたみたいで楽しい気分に成っていたのですが、其処で夫が「何で気付いたんだよ」と呟いて来たのです。更に「折角おまえを驚かせようと思って時間を計算して待ってたのに…台無しだよ!」と怒り始めたのです。
咄嗟に私も「そんなに怒る事じゃないでしょう、気付いたんだから仕方ないじゃない」と反論したは良いのですが其の一言で夫の怒りに拍車が掛かり、「何で気付くんだよ!」と更に声を荒げて怒鳴り始めました。
夫の声は人並以上に響きが良くて且つ声量も有りますから駅の階段室に怒鳴り声が共鳴して煩いの何の。怒る夫に対して私は冷静な眼差しをしていますので余計に怒りが爆発している様子です。
ホームに着いても「何でなんだよ、折角よう!」を繰り返し、やがて電車が来てもブツブツは止みません。車内では私の方を見向きもせずに無言を貫く始末、最寄り駅に着く迄の時間が途轍もなく長く感じられましたね。
やっと我が家の最寄り駅に到着するも無言は続き、家迄の帰り道で「何で気付いたの?」と再燃して流石に此れは不味いと考えた私は「御免なさい、ちょっと見えちゃったのよ」と謝罪したのです。私が深々と頭を下げて謝っているのに畳みかけるが如く「ったくよう何で気付くんだよ!」「如何して気付くかな!」と繰り返し責め立てられて、仕事に疲れて夫に疲れてヘロヘロです。
夫が怒って責めて、私が謝罪してを何十回と繰り返す内に少しずつ夫の怒りは沈下ムードへとシフトチェンジして行きました。結局深夜午前零時を回った辺りで如何にか夫の機嫌が回復し、「今度は失敗しないからね、方法を考えるからさ」という一言をニコニコ顔で言い放って就寝。
夕飯は何を作って何を食べたかさえ記憶があやふやですが、兎も角夫の機嫌が良くなったのでホッして布団に入ったのです。今夜だけでも私が夫に謝った回数を数えたらギネス記録ですし、私にも非が有るなら未だしも此れって冤罪ですよね。未だに腑に落ちない私です。
[女性、年齢不明、結婚歴不明]
*この記事は有志の方によるものです。
写真:PAKUTASO(pakutaso.com)