私の妻は「鬼」

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きょうは何を食べようかな……。メニュー表を見ながら、私はじっくり考えていた。この定食屋のイチオシは「とんかつ定食」だ。確かに美味しくて、何度も食べたことがある。しかし、毎回同じではさすがに飽きる。

きょうは違うものにでもしてみようか。刺身もうまそうだ。アジフライもいい。いや、カレーも……。としばらく悩んでいた私は、ふと我に返った。メニュー表をテーブルの上に置き、前方を見る。やはり、怒っていた。テーブルを挟み、向かい合って座っていた妻だ。
「もう、早くしてよ。男なんだから、さっさと決めてよ」
妻は事あるごとに「男なんだから」と口にする。

そういえば結婚するときも、「男なんだからはっきり言ってよ」と急かされ、プロポーズさせられる羽目になってしまった。
今となっては、妻と結婚したことを後悔している。鬼嫁の顔色を伺いながらの生活は窮屈である。一人暮らしのときは、何の制約もなかった。それこそ、飲食店に入っても時間をかけてメニューを眺めることができた。
今はどうだ。何もかも妻のペースに合わせなければならない。地獄だ。鬼嫁に監視され、私はすべての自由を奪われたのだ。
そんな私も反抗したくなるときだってある。
「何を食べるかぐらい、じっくり考えさせろよ」
「はぁ?」
「だから、俺に時間をくれよ」
「はぁ?」
「だから……」
私の意見に対して、妻は聞く耳を持たない。それからは、黙ってにらみつけてきた。その無言のプレッシャーに、私の心は折れてしまう。
「じゃあ、とんかつ定食で……」
結局、囚われの身の私はこう言うしかないのだ。

昔の男といえば亭主関白で、嫁に文句のひとつも言わせなかったものだ。私の父親もそうだった。家のことは何ひとつしてこなかった。それでも母は言い返すこともなく、ただ黙々と家事をこなしていた。

しかし、私の場合はそうはいかない。休日はゆっくり眠っていたいが、鬼嫁がそれを許さない。朝7時に叩き起こされる。
「洗濯」
溜まっていた服を早く洗濯しろ、ということだ。人に頼むときはそれなりの礼儀というものがあるだろう、と私は思う。たとえ夫婦であったとしてもだ。
その人としての当たり前の行為が、妻にはできないのだ。
「仕事で疲れているんだ。もう少し眠っててもいいだろ?」
ここでも少し反抗してみる。
「はぁ?」
「だから、もう少し眠りたいんだ」
「はぁ?」
「だから……」
そしてまた無言のプレッシャーが襲ってくる。結局、私が洗濯をすることになるのだ。
「男なんだからって、家事しなくていいわけではないんだからね」
なんだその言い分は。自分の都合のいいように「男なんだから」という言葉を使い分けやがって。お前がいう「男」とは、なんでも言うことを聞く、使い勝手のいい人間を指すのだろ。男をなめるな! なんてことを心の中でつぶやきながら、私は洗濯機を回した。

仕事もこなし、家事もこなす。気が休まる時間など、私にはない。
仕事もせず、家事もこなさない妻は、リビングで寝っ転がりながら、のん気にテレビを見ている。そんな鬼嫁を尻目に、私は洗濯物をたたんでいた。

[男性、35歳、結婚2年目]
*この記事は有志の方によるものです。

写真:PHOTO AC(photo-ac.com)

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