結婚したての頃の話。
ウチは共働きで比較的早く帰れる自分とたまに残業で遅くなる嫁なので、家事は分担して行うルールだった。
ある日の夜、寝転がってテレビを見てる自分に、洗濯機から脱水したばかりの洗濯物を持ち、鬼の形相をした嫁が目の前に現れ、
「なんで色物入れるかな!」嫁の片手には俺のエンジ色のTシャツ。
「はぁ?なんで?」普段怒らない嫁の鬼の形相にビビる俺。
「なんでじゃないでしょ!こんなもん入れるから私のブラウスがみんな赤くなったじゃん!どうしてくれんのよ!?弁償してよね!!!」
もう一方の片手には嫁が仕事で着る白いシャツが、まだらに赤くなっていた。
「え?」色移りするハズがない、と焦る俺。
「え?じゃないわよ、どうしてくれんのよ、来週来ていく服なくなったじゃん!」怒りながらも目真っ赤にして、俺のTシャツを投げつけてきた。
自分のTシャツはふだん家で着ている着古したTシャツで、一人暮らししている時からめんどくさくてワイシャツだの下着だの色物関係なしに突っ込んで洗濯を繰り返してきたものだ。色移りするようなもんじゃない。
それが判っていたから洗濯機に放り込んだのだが・・・。
「いや、それのせいじゃないだろ・・・」
「あなたが入れたコレと同じ色じゃん!これのせいとしか思えないじゃん!」
「これ何度も洗ってるから色落ちしな・・・」と言いかけたところで
「してんじゃん!!!!」と怒鳴り散らされた挙句、嫁のもやっと赤くなったシャツを思いきり顔に向かって投げつけられた。
嫁のシャツを見てみたら、たしかにエンジ色っぽい赤が色移りしている。
しかもまだらになっているので傍から見ても着れたもんじゃない。
「とにかくなんとかしてよね!」と吐き捨てると、寝室の方へ独りで行ってしまい、寝室の扉をものすごい音を立てて閉めてしまった。
ものすごい形相と勢いに圧倒されてた自分だが、投げつけられたシャツをまずはどうにかできないかと思い、風呂場に行って漂白剤につけてもみ洗いしてみることにした。
独りで風呂場でしゃがみ込み、嫁のシャツをもみ洗いする自分である。
とりあえず、浸け置きするしか無いと思い、まさか他にも色移りしてないだろうか、と洗濯機の中を覗き込むと、俺の白いシャツとか嫁の下着なんかもじんわり赤くなって出てきた。
あーあ、俺のもか、と思い洗濯機からすべて出そうとすると、一番底に何やら赤黒い物体が・・・。
俺はその赤黒い物体を取り出すと、沸々と怒りがこみ上げて来た。
色移りした洗濯物を漂白剤の入った風呂桶に突っ込んで、寝室へ。
寝室のドアを開けると嫁が真っ赤な目で睨み返してくる。
「何よ」と言わんばかりの形相は、俺が持っている赤黒い物体を見て「あっ」という顔に変わっていく。
「え、これ入ってた?」
「うん」
赤黒い物体は、嫁のワンピース。
この間二人で買い物に出かけたときに気に入って、俺が買ってあげたもの。
「嫁ちゃんこれ入れた?」
「・・・柄物洗おうと思って前に入れたまま忘れてた」
「ごめん」
「ごめんじゃねーよ、今見たら俺のシャツとかも色ついてんじゃん」
「ごめーん」
「買ってね」
「えー」
「さっき自分も弁償しろって言ったじゃん」
「そんなん言った覚えがない」
「おい、ふざけんなよ」
と押し問答したものの、さっきと違って反省しているようなので、渋々許すことにした。
「とりあえずさ、色ついたの浸け置き洗いしてるから、あと宜しく」
「・・・わかった」
その後、暫くして嫁が風呂場で屈んで必死でもみ洗いする後ろ姿を見かけた。
結局、お互いの服は色落ちしなかったので、嫁の財布ですべて買い直してもらいました。
が、結局は家計からの捻出なので、自腹といえば自腹ですが。
[男性、32歳、結婚1年目]
*この記事は有志の方によるものです。
写真:PAKUTASO(pakutaso.com)