それはある暑い夏の日の事でした。
旦那は夏休みで家でゴロゴロ、正直それだけでも暑苦しいと思う私は、すでにいささか苛々もしていたのです。
いやもう、ただでさえ暑いのに役にも立たない、37度の熱を放射している物体がリビングに放置されているわけで、つまりは室温も上がると言う事です。
でもまあ、1週間ほどの我慢なので、しかも毎月現金輸送してくれる37度の物体なので、そこは我慢していたのですが。
そしてその、お昼時の事です。
嫁「昼ごはん何にする?」
亭主「何でもいい」
嫁「何でもいいってのが一番困るんだけど」
亭主「じゃあ・・・素麺で良い」
頭の中で何かがぶちっと切れました。
「素麺で良い」とな?
素麺ってのは、鍋にお湯沸かしてそれから茹でる食べ物ですよ。
茹であがるまでに数分とは言え、ガス台前でスタンバってるのはこの私です。
その後、沸騰したお湯を捨ててその湯気に当たるのも私です。
水で流して冷やす時にも、まずは暑い思いをするのも私。
亭主はと言うと、その後氷水で冷やした素麺を食うだけじゃありませんか。
それが、「素麺で良い」ってのはどういうこと?
素麺ってのは作るほうにとって、特に夏の暑い昼に作るには、そんなに軽いもんじゃないんですが。
そしてこの言い方は、この10年何とか我慢し続けた言い方ではあるけど、限界。
嫁「素麺で良いってのは、何よ」
亭主「いや素麺なら茹でるだけで楽だろ」
嫁「だったら自分でやったら」
亭主「お前の仕事だろうが飯造りは」
嫁「素麺で良いって言うやつに、食わせる飯は無い」
亭主「お前が手抜きで出来ると思ったから、そう言ってやったんだろうが」
嫁「はーん、そんなに楽だと思うならそれこそ自分で作るのね」
亭主「お前なあ」
嫁「別に大したもんでなくていいよ、素麺でいいからさ」
その後、修羅場です。
ここで意味の分からないという男性諸君に、ちょっと解説しましょう。
これが「素麺がいい」だったら、私はそのまま鍋に水入れて素麺茹でる作業にかかりました。
でも「素麺で」なのですよ。
この「が」と「で」には大きな違いがあるのを、女性ならわかってもらえると思うんですが、男性にはどうにもお解りのようでは無さそうです。
XXでいいや、って言うのは相手に仕事に対して、すっごい軽い仕事だからもしくは手抜きでいいから、と言っているようなものです。
そして飯づくりは、夏の日の素麺は決してそんな軽い仕事では無いのです。
しかしこれが「素麺が」になると、「俺は素麺が素麺であるから食べたいと思う」と言う願望の表現になるのです。
そして嫁は、それが亭主の願望なら叶えてやるか、と言う気持ちにもなるわけです。
そんなわけでこの小さな言葉の罠が、家庭内争議の元になることは男性諸氏には心に留めて置いて欲しい事なのです。
余計な家庭内争議を回避するためにも、「が」と「で」の用法は正しく使ってくださいね。
[40代女性結婚10年目]
*この記事は有志の方によるものです。
写真:ソザイング(sozaing.com)