当時、私たち夫婦は結婚式を数ヶ月後に控えていた。
優秀なプランナーさんが担当してくださり、式の準備は大変であるものの順調だった。
プランナーさんからの紹介で結婚式会場のイベントに行くことになった。
そのイベントでは引き出物の実物を見ることができたり、そこで引き出物を申し込むと1割引になるというものだった。
なお、黒留袖のレンタル予約も行っていたので、夫・妻・夫の母・妻の母の4人で出かけることにした。
夫と妻は前からの話し合いで引き出物はカタログにすると決めていた。
遠方からのお客様が多いため、食器など重いものはやめておこうという配慮からだった。
イベントの当日
妻の母「見て~!素敵な引き出物がいっぱい!!どれにするか決めたの?」
妻「カタログにするつもり」
妻の母「え…カタログなの…。夫の母さん、どう思います?」
夫の母「そうね…。カタログは…。もっと思い出になるようなものがいいんじゃないの」
この二人の母、この時初対面、しかも会って10分もたっていない。
なんでこんなに気が合うんだろう…。
夫の母「見て!このお茶碗セットなんて素敵じゃないの!」
妻の母「本当!豪華でいいわ~」
二人が盛り上がっているのは夫婦茶碗とペアの湯呑と急須の5点セットだった。
めちゃくちゃ重そうだ。
遠方からのお客様の負担を考えてこれはなしだ。
夫ともそう話してきた。
夫「それいいね。それにしようか」
夫は妻の方を向いて微笑んだ。
妻は一瞬時間が止まったかのような感覚になった。
そして涙が溢れてきた。
話し合って決めたことなのに、どうして母親の意見で簡単に翻るのだ。
妻と母二人、夫は強いものになびいたのだ。
妻が泣きながら怒りのオーラを出していたため、店員さんはオロオロし、夫はもっとオロオロしていた。
妻の母「ちょっとあんた何で泣いてるの!恥ずかしい」
妻「引き出物はカタログって決まってたんだよ!夫が簡単に話し合いをなかったことにしたのが悔しいんだよ!!」
場はかなり気まずい雰囲気になった。
逃げるように「あとは二人に任せるわ」と夫の母と妻の母は黒留袖のレンタル会場に行った。
残されたのは夫と妻の二人だった。
妻「どういうつもりなの?」
夫「いや~親の意見も大事かな~なんて。ハハハ…」
妻「ふ~ん、二人で話し合った結果も親の意見の前では無効なんだね」
夫「そんなつもりじゃないよ~」
妻「…帰る」
妻はそのまま本当に帰った。
一緒に会場に来た妻の母も置いて帰った。
その後、妻は妻の母から「恥知らず!」と罵られたものの、夫からは「これからは妻の言う通りにします」と言質をとることができ、夫の母からはかなり気遣った接し方をしてもらえるようになった。
思い返せばイベントで大げんかしている痛い新婚夫婦であったが、妻この喧嘩は良かったと思っている。
強いものになびく夫に誰が一番強いか教えることができたのだから。
写真:PAKUTASO