イク、イカないでの大喧嘩

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子どもじゃないんだし、本当にこんな喧嘩はしたくないんですけれど。

その日は娘の発表会があったのです。発表会というても娘はある芸能プロダクションに入っていて、その舞台発表でした。
この娘の芸能活動というのも喧嘩の一つの原因にはなっていましたが、今回は省略します。
「明日は分かってるよね、○○の発表会があるって?」ぶっきら棒なカミさんの言葉付きにむかっ腹が立ちました。
「はぁ、俺は明日用事があるから無理」
「いやいや、結構前からアタシは言ってたはずだけど」
「悪いけど俺はその用事の方が大事なんで」
「えー、田舎からアタシの両親も来るんだけど? 一緒に見るのがいやなわけ?」
「そうじゃないけど、いや、正直言ってそうだね」
「もともとアナタとうちの両親がギクシャクしてるのは知ってるし、今さらどうしようもないけど、流石に嫌いだから来ないって酷くない?」
そこで私は切り札のセリフを口にしました。
「明日、何の日か覚えていないんだね」
「明日? 何だっけ?」
カミさんは思い出そうとして眉間にシワを寄せていました。
その顔を見て、私は一年前に味わった屈辱を思い出しました。
また怒りがどす黒く胸の中から湧き上がってくるのを感じながら、私はキメ台詞のようにカミさんに向かって次の言葉を吐き出しました。
「明日は死んだ親父の一周忌なんだけど」
しばらくの沈黙がありました。
当然、私は謝ってくるカミさんを予測して待っていました。

しかし、彼女の反応は予想外なものだったのです。
「はぁ? 今それ言うわけ? アタシは○○の発表会の準備やら田舎から出てくる両親を空港まで迎えに行かなきゃいけないから、てんてこ舞で、それどころじゃなかったわよ」
「そらそうかもしれないけど、忘れるか普通、旦那の親の命日を。それも去年死んだばっかりだってのに」
流石に少し考え込んだカミさんですが、謝る口調にはならないのが凄いところです。
「確かに忘れていたのは悪かったけど、アタシだって仕事しながら全部、いろいろこなさなきゃならなかったし、逆にそのことを前もって言ってくれていれば良かったじゃない」
「うわ、逆ギレなわけね。こっちはお袋に続いて親父まで死んでさ、どっちの親もいないわけじゃない? それなのに自分の生きている両親のことばっかりでさ、おかしくねぇ」
「はぁ、このタイミングで一周忌のこと持ち出す神経が信じられない」
カミさんはそう言いながら私に冷たい視線を向けました。
結局その日を境に、カミさんの両親はもちろんのこと、実の娘とも険悪な関係になりました。
今では会話すらしてくれなくなりました。
[男性、50歳、結婚23年]
*この記事は有志の方によるものです。

画像:PAKUTASO(pakutaso.com)

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